【硬式野球】優勝記念!監督コーチ特別インタビュー ~中野真博コーチ編~

硬式野球

全日本大学野球選手権決勝、青学大硬式野球部は圧倒的な力で勝利し、18年ぶりの日本一を達成した。マウンド上で歓喜の輪を作る選手たちの姿が印象的なゲームセットの場面、ベンチに目をやると、安藤監督の隣でその様子を見守る一人の男がいた。中野真博コーチである。4年生を中心とした鉄壁投手陣の活躍は、抜群の安定感と完成度の高さで、世間に大きな衝撃を与えた。彼らがここまで上り詰めることができた裏には、中野コーチの存在がある。

試合中選手らに声をかける中野コーチ

高校時代に甲子園で脚光を浴び、卒業後は青学大硬式野球部でプレー。社会人では東芝に選手として10年、コーチとして9年在籍し、引退後には1年間のサラリーマン生活を経験している。文句なしのキャリアに当然投手コーチとして白羽の矢が立ったが、就任には葛藤があった。「ほんとはこっち(東芝)を裏切っちゃいけないと思ってた。」19年間の野球人生を終え、41歳のオールドルーキーとして飛び込んだサラリーマンの世界。中野コーチは、右も左もわからない自分を導いてくれた会社に恩返しをしたいという思いを抱いていた。会社の期待に応えるか、大好きな野球に再び携わるか、本音が分からなくなるほど悩んだ男の背中を押したのは、河原井正雄前監督の存在と、家族の後押しだ。「河原井さんに「頼むやってくれ」ってお願いしますみたいなこと言われたのが決め手だった。」コーチの依頼に対する青学大野球部の本気度、そして、妻からの「あんた野球やりたいんでしょ」という言葉に背中を押され、2019年4月から青学大硬式野球部の投手コーチとして、第二の野球人生をスタートさせた。

社会人の名門・東芝で積んだ19年間の経験は、現在の指導にも活きている。「自分では、成功体験より失敗体験のほうが多いと思っていて、失敗体験を喋れるのはプライドもないので僕の強みかなと思います。ただ、自分は成功してないけど、良い選手は見てきて、成功している選手も何人か見ているので、両方喋れるのは僕の強みかなと思いますけどね。」選手とコーチの両方で得た知識や経験をもとに、選手一人一人に合ったアドバイスやヒントを伝え、与えた壁をクリアしてもらう。それが、中野コーチのコーチングスタイルだ。選手からの信頼も厚く、児玉悠紀(コ3)は「選手にコミュニケーションを取って寄り添ってくれる。」と語っている。

インタビューに応じてくれた中野コーチ(写真・硬式野球部提供)

今季は、下村海翔(コ4)・常廣羽也斗(法4)・松井大輔(コ4)の4年生トリオが久々の快挙に大きく貢献した。この3人について問われると「よくぞ名前を監督に呼ばせてくれて、しかも結果まで出してくれて、本当によく頑張ったなって」と評価。「僕なんか本当になんもしてないですよ笑。」と、選手の頑張りを称えた。この3人はそれぞれ、中野コーチから与えられた壁を乗り越えて今の立場を掴んでいる。精鋭揃いの青学大投手陣だが、全員が課題をクリアできるとは限らない。「頭ではわかっていても体で覚えてなかったらパフォーマンスできないので」と、中野コーチ自身もその難しさを口にする。「インプットしてアウトプットまで上手くいけたのは、3人はすごいなと思います。僕はできなかったので笑。」「うちの今の3人は、大学球界では間違いなくトップレベルだと思っていますね。」と、大活躍の3投手について自信を持って語ってくれた。

今春成し遂げたリーグ優勝・日本一の要因について、中野コーチは「チーム全体が、日本一を本気で、同じ熱量で目指せたのが一番でかい」と話す。安藤監督、中島大輔主将(総4)のもと、悲願達成に向けて冬から全員で一丸となって積み上げた鍛錬は、最高の結果で実を結んだ。この勢いをそのままに、来季もリーグ優勝・日本一に向けて動き出す。秋に向けての意気込みを聞くと、「優勝するために、日本一獲るために、良いチームを作りたい。良いチームを作る、(良いチームに)なる、環境というか体験をさせてあげたい。」と力強く話す。新戦力の活躍にも期待がかかる中、「やってもらわなきゃ困る」として名前を挙げたのは、児玉、中西聖輝(コ2)、渡辺光羽(営2)、鈴木泰成(社1)の4人。「下村、常廣、松井を抜かしてほしい。」と期待を寄せる一方で、「まあ常廣とかには「負けるな。そんな簡単に抜かれるな」って言ってる。」と、笑みを浮かべた。

真剣に取材に応じる中野コーチ

「どれだけ選手のためにとかこの優勝に関わっているのかは全然わからないですけど、言いたいことは言いました。で、表現してくれたっていう。だから、選手がよくやってくれたっていうのが一番。僕は何もやってないです笑。」このスタンスこそ、中野コーチの真髄である。選手一人一人に寄り添い、自分の経験・体験を伝える。そして、選手たちは教わったことを自分の中で消化し表現することで、壁を一つ一つクリアしていく。大学野球界屈指の投手陣は、こうして作り上げられた。結果を出せるか出せないか、最終的には選手本人の力が試され、コーチがどうにかできる問題ではない。そう考えると「僕は何もやってない」という言葉は、間違いではないのかもしれない。しかし、今回の素晴らしい結果において中野コーチが必要不可欠な存在であるという事実は、監督・選手のコメントからも想像に難くないだろう。

「ぜひグラウンドレベルで選手を見てほしい。本当に良い顔をしてくれているので。」ファンに向けてのメッセージを求められると、こう答えた。影の立役者は、選手愛に溢れる偉大なOBである。秋は、選手はもちろん、ブルペン・ベンチ・マウンド上での中野コーチにも、ぜひ目を向けてみてほしい。

(記事=川﨑史緒、写真=遠藤匠真・川﨑史緒・硬式野球部提供)

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