陸上人生最大の離脱
苦しいスタートとなった今シーズン。第98回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)を終え、およそ1ヶ月後に控えていた別府大分毎日マラソンに出場予定でいたのは近藤幸太郎であった。今年度主将を務める宮坂大器、副将の横田俊吾、西久保遼と当時3年生4人で挑む予定であった。しかし、疲労骨折が近藤を襲い棄権という形で出場は叶わなかった。それから時間が立ち、日本体育大学長距離競技会に姿は見せるも、5月に行われた関東学生陸上競技対校選手権大会に出場することはできず、近藤の陸上人生で最も長い離脱を強いられ、思うようなシーズンを過ごせていなかった。
王者のまま帰ってきた
辛酸をなめた近藤は大きな結果を出す。9月11日32度と猛暑の中、天皇賜盃第91回日本学生陸上競技対校選手権大会(全日本インカレ)5000mのスタートラインに近藤の姿があった。選手コールの際、2日前に10000mに出場した中村唯翔が行ったポーズとともに笑顔で声援に応えていた。しかし、近藤は内心緊張をしていたという。「走れるかどうかわからない状態だったので、不安で仕方がなかったです。すごい緊張していました」と自分自身にしか知りえない感情があった。そのような状態の中、レースプランはどのようなものであったのか。「留学生がそこそこハイペースに持っていくだろうなと思っていたので、つけるところまでつく」というプランを考えていた。レース前の目標は8位入賞であり、あわよくば優勝であった。
レースは近藤のプラン通り留学生がハイペースに持っていく展開となった。1000m、2000m、3000mとラップタイムが4秒、5秒と落ちていきペースが一定しない中、東京農業大の高槻が先頭に立ちペースが一気に上がった。近藤は「余裕があった」と自分の身体の状況も把握しており冷静な走りを見せていた。残り1200m会場にどよめきが走る。近藤がスパートに入ったのだった。当時の心境を聞くと「気づいたら前にいて、気づいたら後ろが離れていた」と天才肌なレース感覚を持っている。その後、後続との差は開くばかり。見事全日本インカレ昨年に続いての優勝、2連覇を成し遂げた。
好調を走りで示した
全日本インカレからおよそ2週間後に行われた第7回絆記録会5000mに出場し13分43秒07と今シーズンのセカンドベストで日本人トップの3位であった。レース後、2レースとも好走した近藤は「練習ではわからないところもあったので、試合に出させてもらい二つともよかったので、失っていた自信を取り戻せました。しっかり戻ってきている感覚もありますし、自信もついた」と明るい表情で語っていた。
3冠へ向けピストルが発砲する
出雲全日本大学選抜駅伝競走(出雲駅伝)が近づく中、チームとしては主力が足並みそろえていない状況ではあるが4年生が先頭に立ち盛り上げている。「主力の穴を補えるような選手が出てきていますし、出雲駅伝から戦えるチーム状況にあるのかなと思っています」とエース近藤の目から見ても力があるチームということが知れるだろう。出雲駅伝の意気込みをうかがうと「勝てるチャンスをものにして、後に続く駅伝につなげられるようにしたいです。チームとしては3冠を取りにいきます」と力強く口にした。出雲駅伝が終わると11月に全日本大学駅伝対校選手権(全日本駅伝)、そして1月には箱根駅伝とある。希望区間としては「昨年度走った出雲駅伝1区、全日本駅伝7区、箱根駅伝2区以外です」と笑顔で言う。任された区間を全力で走るのが近藤の真骨頂。重要な区間へ配置されるだろう。
暑さを全く苦にしない近藤幸太郎。今年も暑さの中でのレースと予想されている出雲駅伝に、「青学大のエース近藤ここにあり」と3冠への第一歩を出雲の地で踏み出してほしい。
(記事=阿部夢杏、写真=遠藤匠真・童野翔也)
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